『神に仕えし修道士が造り出した、南仏の奇跡のワイン!』
・地中海に浮かぶ小島の修道院で素晴らしいワインが造られている・・・・。ある程度ワインに詳しい読者なら、「地中海の小島」で素晴らしいワインができるとは思わない。筆者も同じように考えていたのだが、手元に届いたサンプルを飲んで驚いた。もう居ても立ってもいられなくなり、筆者は南仏へ飛び、2007年の収穫と仕込みに参加してきた。
以前、このコラムのなかでも、筆者がピノ・ノワール種好きの「ピノマニア」であることはお話しした。その筆者を南仏へと駆り立てたのは、「ピノ・ノワール種」「地中海の小島」「修道院」というキーワードである。 ワインの世界の常識に照らしてみれば、まるでゴシック・ミステリーの謎解きでもするような、不思議な組み合わせである。
元々、地中海地方は温暖すぎるあまり、葡萄が早く熟してしまい、風味が乗らないうちに収穫してしまう。南仏をはじめとする温暖地のワインがアルコールは十分なのに、風味が控えめになるのはそのため。しかも、ピノ・ノワール種は果皮が薄いので、他品種よりも色合いや風味を強く表現するのは、さらに難しくなる。
結論から言えば、筆者はしばらく修道院暮らしを送ることで、この謎に納得できる理由を見いだすことができた。詳細を話すには誌面が足りないが、やはり大事なのは「よいワインはよい葡萄からできる」ということ。そして、奇跡的な組み合わせを可能としたのは、やはり修道士たちの「神に捧げた労働」によるとしか言いようがないのである。
筆者の高揚感を差し引いても、ブルゴーニュ地方の特級に並ぶクオリティと言い切れる。限りなく収量を落として、葡萄が十分な風味を獲得するまで収穫を待つ。とにかく葡萄の状態が素晴らしい。深い色合い、小さくて張りのある粒。世界のどこのピノ・ノワール種よりも健康で充実していると思えるほど。
サンプルの2005年は、新樽風味が強めで現代的スタイルだったものも、2006年は葡萄の力強さが増して、抜群の調和を導き出した。待ち遠しいことに、こちらは来年まで待たねばならない。でも、世界シラー種コンクール優勝の「キュヴェ・サン・ソヴァール」、シャルドネ種の「キュヴェ・サン・セザール」は限定で発売されている。
いずれもピノ・ノワール種に劣らない丁寧なワイン造りで、十分に満足できる仕上がり。聞けば、修道士みずからがワインを造るのは、このレランス修道院が世界で唯一とのこと。西暦405年設立以来、修道士が1600年余にわたり維持してきた。ワイン界の常識をひっくり返す「奇跡」を信じてみたくなるのは筆者だけではないだろう。
[グランド・キュヴェ・サン・サロニウス2006年]の評価指標 ・コストパフォーマンス度/8/1600年余にわたって維持されてきた修道院のワインだけに、逸話だけでも元は取れる。 ・飲みやすさ度/9/2006年はコート・ドール・スタイルに仕上がり、優雅で喉を滑るような感じ。 ・飲みごろ度/9/2006年は膨らみに加えて張りがあるので、いまから20年は楽しめるだろう。 ・将来の価格上昇度/9/ブルゴーニュ特級が3万円以上の時代だけに、ストーリー性が評価されれば数倍に跳ね上がる。
渋み/9 香り/9 複雑さ/9 硬さ/8 酸味/9
※D.R.C.サイトウの一口メモ 艶やかな深いルビー色で完熟のダークチェリーやブラックベリーの濃密な風味に加え、チョコレートやバニラ、スパイスの風味がある。やわらかで膨らみがありながらも、清涼感のある酸味や肌理(きめ)細かいタンニンがあるので、優雅さは見事に表現されている。
【DRCサイトウ氏 プロフィール】 ワイン・スクールで数千人の「ソムリエ」の受験指導を行い、また、世界の銘酒を飲み尽くすワインの達人。ちなみにD.R.C.は有名ワイナリーの略語ではなく、「休業中の敬愛すべき軟派野郎(Dragueur Respecte Chome)」のこと(笑)。 |